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シルバーマン著「自閉症の世界」を読む

夏休み唯一のフリーの週末でした。昨日はリフレッシュ、今日は自宅で雨読の一日でした。実り多い週末でした。

スティーブン・シルバーマン著「自閉症の世界 多様性に満ちた内面の世界」(正高信男・入口真夕子訳 講談社ブルーバックス 2017)を読んでいた時、自閉症の子どもの「治療」で「対話のレッスン中にちゃんと集中しなかった」ビリーという七歳の少年を平手でたたいている。」のところで思い出したことがありました。平成12年(2000年)、国立特別支援教育総合研究所に短期研修で赴いたとき、「叩いて自閉を治す」というような表題の本を見たように覚えています。不適切な行動を起こす直前のタイミングに子どもを平手で叩いて行動を起こさせないようにするというものです。これはいかがなものかと避けていたのですが、史実として確認しておきたいと思って情報を探してもネット上では見つけることができませんでした。方法として同じでなくても、「自閉的行動をまず消去しない限り自閉症児は学習できるようにはならない」等としてそれがアメリカで行われていたというのです。同様の「治療」は電気ショックを用いることなどにわかには信じられないことも記されていて自分の無知を責めてしまうほどです。

この本を読み進める中で何点か疑問に思ったことのひとつに、著者はDSM5に全く触れていないことがあります。DSMⅣまでの経緯は背景を含めて記述があるにもかかわらずです。DSM5のドラフトは2010年に出ているのでシルバーマンが知らないわけがありません。これをどう読み解くか。少なくともDSM5への期待ではないでしょう。では何なのか。この本の題名から著者のメッセージを推し量ってみます。

オリジナルの英語版(kindle版)の題名は「NEUROTRIBES」です。neuroとは神経の意味で、DSM5では自閉症関連は「Neurodevelopmental Disorders(神経発達症群)」にカテゴライズされています。自閉症やアスペルガー症候群はASDとされました。知的症なども含めて神経発達上に課題がある症例としたわけですが、原題のneurotribesは直訳すると「神経の種族」で、まるでDSM5に真っ向から挑戦状を突き付けているのではないかとも受け止められるネーミングと思われます。しかし、この本全体の文脈からしてあらたな診断名の提案のようなものではなく、この題はあくまでも現時点での自閉症の研究プロセスの状況を表している、つまり著者にとっても「仮題」ではないでしょうか。今後の研究に俟ちたいというメッセージだと考えます。そもそも自閉症について詳細に書いておきながらautismを表題とせず、neurotribesとネーミングした著者の意図に思いを馳せながらじっくり読みたい本です。

しかし、邦訳についてはネット上で意訳や誤訳、割愛の指摘が少なからずあって、私もなんとなく読みづらいところがあると感じていました。かといってオリジナルの英文ですらすらと読めるわけではありません。翻訳ものは意訳や誤訳、割愛に触れてなくてもそうしたことがあるものとして読むスタンスが大事です。シルバーマンの「自閉症の世界 多様性に満ちた内面の世界」はそれを承知のうえで教育に携わるみなさんに広く読んでほしいと思っています。

ちなみにkindle版の副題は「The Legacy of Autism and How to Think Smarter About People Who Think Differently」です。「legacy」という言葉は「東京2020のレガシー」等々で使われるので却って訳は難しいと感じています。

※以上、後日修正の可能性があります。

このkindle版、今朝はたしか790円でしたが昼過ぎに690円となっていて思わず購入してしまいました。私の見間違いだったのだろうか・・・ 今日は、あと、メルロ=ポンティの「知覚の現象学」も何日か迷った末にオーダーしました。両義性についてやはり原典を当たっておきたいと考えました。これも翻訳ものですがオリジナルはフランス語か・・・

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